CRUNCH LOOPING





あ〜、も〜
あ〜も〜あ〜も〜

嫌な話題を持ってきたであろう赤髪の少年は俯いてティアを隠れ見る

そのなんと恥らう姿よ
なんだかんだ言ってもティアはルークに弱いのだから仕方ない


こうなったらガイで憂さ晴らしするしかないわ

「さぁルーク。私に相談して御覧なさい。」
嫌に寛大な所を見せれば彼は溢れんばかりの笑顔で短くお礼を口にする
うん。分かってたの

そのいちいち可愛い所作に握り難くなった拳は隠しておいた






ティアはそれこそ扉が壊れるんじゃ無いと思うぐらいに取っ手を回す
今日の来訪は予想していなかったのか、ガイは窓辺で優雅に読書なんぞしているではないか
「おい、ガイ。」
ティアの綺麗な口から零れる汚い声音にガイも目を瞬かせて見る
「ティア…さん?なんか口調が変わっちゃってますよ〜…。」
えぇえぇ
変わりたくもなりますよ
「私を巻き込むのは止めて、と言ったはずじゃなかったかしら?」
豊満な胸の前で腕を組み重心を片足にかける
その顔は笑顔で、怖い

「ってことは、また?」
「そう。また。」

ガイは読みかけの手元の本に栞も挟まず閉じる
まるで放り投げるようにそれをベットに落す

「ティアさん。お茶とコーヒーどちらがよろしいですか?」
ガイは引き攣った笑顔で問う
ティアはそんなガイの手元をちら、っと覗きそこには無いであろうハーブティーと答えた



「とはいっても全然心当たりは無いんだが…。」
いつも一緒に買い物したり、他愛も無い話をしたり、非常に清く正しいお付き合いをしているはずだ
「そのようね。」
わざわざ下の階まで取りに行かせたハーブティーで喉を潤しながらティアは呟く
やっぱり匂いがきついのはダメかも知れない、と今更ながらに感じる

「じゃあ…。」
何がそんなに不満なのか、ルークの考えてる事はさっぱりわからない
とガイは真摯にティアを見る

今この状態でルークの望みを知っている人物は彼女を置いて他にいないのだ

「前の話に戻るけど、あの後ルークは聞いちゃったのよ。」
「何を?」
「ナニを。」

はぁ、とため息を洩らしティアはソーサーを手元に置く
眼前の青年はそれは見事に固まっている

「貴方あの後ルークの追及を適当にあしらったらしいじゃない。それで気になったルークは相談しちゃったのよ。」
「…誰に?」
「アニス。」

まだジェイドじゃなかっただけありがたいのか、どうなのか
「どこまで聞いたのかははっきりとは答えてくれなかったけど…。」
「それでルークは不安を感じてるってことか…?」
ガイは顎に手を当てて考える
おそらくどうやって緊張を解すかを思考錯誤しているのだろうがそんなことでは話は終わらない

「近いようで遠いわ。」
みし、と手元のカップが音を立てたような気がする
ティアは怒りに引き攣る顔をどうにかこうにか崩す

「ルークはアニスから参考資料、として漫画を借りたのよ。」
「漫画…?」
オウムのように返すガイの目の前に一冊の本を投げる
アニス所有の本だ

顔の面積の半分は眼があり、妙に短いスカートは絶対に捲れる事は無い不思議な現象
後ろに花を背負って描かれる金髪の青年は切れ長の目で笑っている

あぁ、世に言う少女漫画…


「コレ…?」
ガイの問いかけにティアは大きく頷く
恐る恐る手にとり中を捲ると飛び込んでくるその話はとにかく凄い
「貴方達、付き合い始めて何ヶ月?」
ティアはおもむろに口を開く
「確か…、4ヶ月…」
ガイは目で漫画を追いつつ答える
「え〜?じゃぁどこまでいったの?エッチはした?」
無表情のまま口調だけ妙に明るく言うティアの今の姿は非常に怖い
が、ガイの視線は手元の本に注がれている為にその姿を確認する事は出来ない
「いや、…まだ何も…。キスだって、そんなには…。」
「え〜本当に?ありえなくなぁ〜い?だって相手年上でしょ?それって絶対浮気してるって!絶対遊ばれてるんだよ!」
ガイは無言のまま手元の本を閉じる
そのまま裏を向けてティアの方に本を押し返した

「分かった?」
「…分かった…。」
漫画の内容そのままがガイとルークに当てはまるのだ
4ヶ月付き合ってて何も無い
もちろんキスも無い

いや、厳密に言えばあったがそれは触れ合う程度の啄ばむキスであってこの漫画の最後にあるような貪るキスではない


漫画で言われていたように4ヶ月間何も無いのは不安なのだろう
なんとも可愛らしい悩みではないか


「貴方とルークじゃなかったらね!」


がたり、とティアのほうから音が鳴ったと思うとガイは身体を凍らせる
「あのね、私は今でもガイとルークが付き合うのは反対なの。」
ガイは頷く
それは前にも面と向かって言われた事だし賛成される関係でもない事は知っている
「でもルークがいいって言うから目を瞑ってるだけなの。本来なら貴方達のお付き合い進行度をリアルタイムで聞きたくなんかないのよ。」
「存じ上げております。」
「それを今回ので3回目。しかも、どんどん内容が痴話喧嘩になっていってて私はもう耳を塞ぎたいぐらいなの。」
わかる?とティアは優しく問うが、ガイの額には不自然なほど汗が吹き出ていた
「今度私に迷惑かけて御覧なさい。…切り落とすからね。」
何を!?
と問う勇気はもうガイには残っていない

ティアはゆっくりと扉を開きその身を潜らせて部屋を出た
手元の本が見るも無残な姿になっていた



1人、暫く動かなかったガイはふと、何かを思い出し一人で頬を染めている

「やっべぇ、どうしよう。」
困惑の色よりは嬉しそうな声音で呟く言葉はもう答えが出ているくせに響く

「ちょっと、嬉しい。」



締まりの無い笑みを浮かべてガイは部屋を出た
その足取りは、軽い