桃色の象駆け抜けて消えた





「それで、私に相談した訳ね。」
こくん、と首を縦に振る赤い髪の少年はそれでも真摯な視線でティアを一直線に見据える
「ルーク、ひとつ聞いておきたいのだけど…。」
ティアは向かい側に座る少年のほうに身を少し乗り出し小声で訊ねる
「ガイと、男同士だって分かってるわよ、ね?」
これまた赤い髪の少年はこくん、と首を縦に振り
ティアはちいさく「そう…。」と答えた



ガイラルディア・ガラン・ガルディオス
元々はファブレ公爵家に復讐する為に使用人になったというが、今の彼にはそんな気はこれっぽっちもない
来る日も来る日もルークの世話に忙しなく動きまわりルークの為に生きているといっても過言ではないであろう

「そんな彼が、ルークを避ける?」
ありえないわ
絶対ありえないわ
天変地異が起ころうとありえないわよ

しかも、なんで寄りによってあのガイと付き合うことにしたのよ!ルーク

がたん、とティアは拳を机に叩きつけた
「…ティア?どうかなさいまして…?」
ナタリアはおそるおそるティアに近づく
その声で我に返ったティアは急いで拳を引っ込めなんでもないわ、と繕う
ナタリアは「そう、」と未だ納得していないものの深く追求する様子は無いようだ
ふとティアはナタリアの意見も訊きたいと思った
自分だって色恋沙汰に鋭い訳ではない
どっちかといったら疎いほうかもしれない
その点ナタリアは長年年季の入った片思い…いや、実際は両思いなのかしら?
とにかく相手のことを思いつづけて十数年
年季が違う

「ねぇ、ナタリア…。」
ティアはナタリアに声をかけたがどう切り出していいのかわからない
ルークとガイが付き合ってて、最近ガイがルークを避けてるそうなんだけど理由分かるかしら?
ストレートに訊ければそれで済む問題であるが、ルークもガイも男同士なのだ
「…なんでも、ないわ。」
言える筈が無い
ティアは盛大なため息と共にそう言葉を続けた




「ガイ!!」
一人で悶々悩んでいても仕方ない
ここは本人に直接問いただすしかないわ、とティアはガイの部屋をノックもせずに開いた
ガイは丁度音機関を弄っていたのか、机に向かって座っている
「ティア?どうしたんだ。」
突然の来客にガイは驚き立ち上がったがティアの憤慨した様子に顔色を崩す
「まさか、ルークに何かあったんじゃ…「違うわよ。」」
ティアはガイの言葉を遮って言う
全くこの男の脳みそにはルークしかないのかと疑いたくなる
「ルークと付き合い始めたんですってね。」
ティアは後ろ手で扉を閉めて冷ややかな声で問う
一方ガイは幸せそうな、嬉しそうな、それでいてどこか困ったような表情を映す
むかつく、と素直に表現するとそんな感じだ
ティアは両腕を組み、ガイを真っ直ぐ睨む
「ルークに訊いたのか?」
「そんなところよ。」
そうか、とガイは呟くと頭の後ろを軽く擦る
椅子を進められたが辞退した
自分はガイと友好的に話しに来たのではない、問い詰めに来たのだから
そういう意志の表れだった
「それで、ティアはそれを確認しに?」
「それもあるけど、ルークに相談されたのよ。」
ルーク、
その言葉を聞くだけでこの目の前の男はぴくりと反応を見せる
まったく、むかつくことこの上ないわ
ティアは顔を斜に目に掛かる髪の毛を揺らす
「あなた、最近ルークを避けてるそうね。ルークが気にしてたわ。」
「…それだけ…?」
ガイは恐る恐るといった様子でティアを見る
ティアは睨みながら「ええ、そうよ。」と短く答える
と、ガイは長い長い安堵の息を付き、笑う
今度こそ椅子を進められ、それでも辞退していると机に2人分のお茶が置かれる
「怖いんだよ。いつルークから別れの断りが伝わってくるかと考えると…。」
呟き、丁度休憩にしようと思ってたんだよ、とガイは反対側の椅子を引き座った
座らないと話す気が無い見たいね、ティアはやっと諦め大人しく椅子に腰掛けた


「ルークはまだ7歳だろ。」
ガイはポツリと零す
「えぇそうね。」
ティアは何のことでもないように答える
この世で生を受けてから数えると7歳ね、と
ガイは薄く笑って言う
「7歳って異性の事より同性といる方がいい、って歳じゃないか?」
ふと自分が7歳のころを思い出す
確かに、同性の友達とよく遊んでいたような記憶がある
「それで?」
ティアは先が読めずに促す
「ルークは、今俺を好きだと言う。でもそれは同性への安心感やそういった感情を間違って愛情だと思ってるかも知れない。そもそも親からの愛情もろくに注がれなかった家庭で唯一心を許せたのが俺かヴァンかだけだからな。」
「…つまり、ルークのガイへの気持ちは愛情ではなくて親や友達への友情に毛が生えた程度のものだ、って言いたいのかしら?」
御明察、とガイは茶を啜る
「じゃあなんで付き合ってるのよ。」
まったくその通りであるならばどうして付き合うなんて不毛な事をしたのか
「だれだって痛烈に片思いで絶対叶わない相手に好きだって言われたら断れないだろ。」
あっそ、とティアは呟く
ティアは椅子から立ち上がり部屋を出て行こうとする、がふと立ち止まった
決してガイの方は向かず、ガイの瞳に映るのはその背中だけだ
「ルークは、ちゃんと理解してるわよ。」
「…?」
ガイは椅子を倒し、立ち上がる
「ルークはあなたと居ると胸がぎゅ〜となって、あなたと触れるとすっごく嬉しくって、あなたと話してるとずっと一緒にいたいと思うそうよ。7歳の子供だってちゃんと友情と愛情の区別はつくわ。ちゃんと男同士でおかしい事だということも理解してるわ。その上であなたが良いって言ってるのよ。」
もう少しルークと向き合ったら?ルークは今部屋に居ると思うわ。
ティアはそう残して扉を勢いよく閉めた
そのまま廊下の角を曲がった辺りで後ろから扉を開く音と激しい足音が響く

今日から当分の間、ガイは回復してあげないんだから、とティアは軽い足取りで部屋に戻っていった