アイツの手を離さないように
ヴァン師匠
ガイ
二人が共謀していた事を、初めて知った
また、知らない部分を見つけてしまったんだ
ヴァンと遭い、そこで聞いた話がルークの頭の中をぐるぐると廻っている
「疑いも御尤も。信用出来ないなら出て行く。」
そう云ったガイを引きとめたのは誰でもないルークだ
信じたい、それに信じてる
簡単に考えていたのかもしれない
ガイが自分を裏切るはずが無い、そんな風に思っていたのかもしれない
本当、バカだよ
自嘲的に笑い、ルークは顔を腕に埋める
相手が信用できない事って、こんなに
「辛い事、なんだなぁ…。」
ヴァンと会って無意識的に体に力が入っていたのか
未だに恐怖を感じるヴァンと対峙したルークは疲れていた
宿を取り割り当てられた部屋の寝台で死んだように眠る
同じ部屋を宛がわれたガイはルークに静かに近づき、その髪を指で遊ばせる
「ルーク。」
優しく声を掛けるが、眠るルークには聞こえない
ガイはその様子を愛惜しそうに眺めルークの前髪に触れる
顔を隠していた髪をずらし、その顔を見やる
そこか高貴さを漂わせるその顔
そっとガイは頬に手の腹を添える
親指で閉じられた瞳をなぞる
そのまま身をかがめて掠めるように口付けをし、ガイは静かに部屋を後にした
どの位眠っていたのだろうか
窓の外は赤く染まってはいるが、未だ夜ではない
ほんの数時間だろう
ルークは身を起こし辺りを見渡す
質素な、最小限の家具だけが並んでいる
その並びに変化は見られず、まるで誰も部屋に立ち入っていないようだ
「…ガイ?」
ルークは呼びかけるが部屋の何処にも彼の姿は無くルークは視線をめぐらせる
随分と寝たな、と笑ってくれる姿は無い
「…ガイ?」
不安げに揺れるルークの声
だが、やはり彼は答えない
そうだ、迎えに行こう
ルークは寝台のシーツを勢い良く捲る
と、左手で掴んでいるシーツを見る
おそらく、このシーツはガイが掛けてくれたものだ
ガイは自分を気に掛けてくれてる
ガイはちゃんと俺と一緒にいてくれるんだ
寝台を抜け出し、そのまま走るように扉を開いた
扉の近くにはティアがいた
ルーク、危ないじゃない。と彼女が怒ってる声が聞こえるがルークは後ろを見なかった
ただ、ガイを迎えに行ってくる、とだけ叫び右手を上げる
ティアの答えは聞こえなかった
後で怒られるんだろうな、
ルークは走る
過ぎていく視界の中に金色に光る髪を見つけた
「ガイ、どこにいってたんだよ。」
声を出そうとしたその時、ルークは咄嗟に身を隠した
すぐそこにいる彼は間違いなくガイだ
走り寄って腕を引いて部屋に戻りたい
が、ルークの足が小刻みに震えるではないか
体全体が言う事を聞かない
それはその視界の先
ルークとガイの視界の先にいる人物が恐ろしいから
ガイは誰もいない、誰も通らないような脇道でヴァンと話していた
会話が聞きたい
ガイとヴァンが何を話しているのかを聞きたい、でも怖い
何が怖いのか
分からない
震える足を奮い立たせてルークは少しずつ歩く
これ以上ここにいると恐怖で押しつぶされそうだ
気分も悪くなってきた
右も左も前も後ろも分からない
ただ、視界はガイから逸らせなかった
ガイが何かを言っているのが見える
するとゆっくりとヴァンの腕が上がる
ヴァンの腕がガイの胸元まで伸びる
その手はガイの手を求める
怖い怖い怖い
そこから先を見る事を体全体が拒否したように
ルークは弾かれたように走り出す
目に付いた道を曲がり、人の多い所を避ける
周りに人一人いなくなったその場所は街中から少し離れた木の根本だった
ルークはその気に背中を掛け息を整える
「信じてぇよ…。」
左手で顔を隠すように覆う
漏れそうになる嗚咽をかみ殺して、声すら殺す
「なんで、信じさせてくれねぇんだよ。」
ずるずると体を落とし、膝を抱く
「つらい。」
顔を腕に埋める
「信じたい、けど…。」
記憶が呼び起こされる
無機質な甲板だ
ガイは怒った風な表情を浮かべて
ちがう、眉を寄せて言った
訝しむように、まるで俺を見ることを拒否するような目で
「失望させないでくれ。」って
そもそも今までガイが自分を殺そうとしていた事に気が付かなかったんだ
ヴァンとガイが未だに共謀していたとしても自分が気づけるはずが無いじゃないか
自分の知らない場所で、ヴァンと遭っていた
それだけでこんなにも動揺してしまうのか
「信じてないのは、俺か…。」
最低だ、俺って
「ルーク?」
静かに耳を打つ声にルークは体全体を震わせた
ゆっくりと視界を上げるとそこには見慣れた金色の髪が見える
こんな時でも綺麗に光るんだな、とルークは俯く
「何してるんだ?」
ガイは静かにルークに触れる
「触るな。」
冷たい声音だと自分でも思う
でも今、ガイに触れて欲しくなかった