世の果てに似ている





タイミングが悪いですね
ジェイドは眠るガイを眺めながら人知れず呟いた



疑問が浮かんだのは数日前
普段なら酷く自然に相部屋になるであろう2人が別の部屋を取った事だ
そう聞くと別段おかしいとは思わないであろうが、相手はガイとルークである
しかもどうやらガイの方が一方的に避けているように見える

「ガイ?何か言いたい事があるんじゃないですか?」
窓際の椅子に腰掛け、流すように読んでいた本を閉じる
「……。」
言い出し辛いのか、言う気がないのか
ガイは聞こえなかったかのように窓の外を見やる
それでもジェイドは動かなかった
やがて、降参、とでも言いたげに肩を竦めガイの首が室内へと動く
「旦那なら、分かってるだろ?」
確かに
予想、というよりは確信に近いだろう
あらかた予想は付いている
いつかはガイ自身気が付くであろうと思っていた
「私は予想で物事を判断するのは嫌いなんです。」
ですから、あなたの口から仰ってください
ガイは薄く、微笑って軽く口を開く
「聞いてから、後悔するなよ?」
「大丈夫ですよ。」
もう既に後悔してますから
そう口の中で転がすと、ガイの話に耳を傾けた


「髪を切ってから、変わったよな。」
主語が抜けてますよ、と思ったがこの会話で分からない訳ではないので黙っておく
「そうですね、いい意味で成長が見えると思いますよ。」
「そうなんだ。素直になったし可愛げも生まれた。」
その部分は同意しかねますが、とジェイドはメガネを直しガイは笑う
肩の震えが納まってから、まっすぐとジェイドを見る
「俺、どうやらルークのことが好きみたいだ。」
「おや、直球ですね。」
表面上爽やかに笑っている目の前の青年はその実内側に黒い渦があることを知っている
彼と長く共にしていれば薄々と感じることもできる
いや、彼の演技は完璧だ
軍隊に所属し、洞察力の優れたジェイドだからこそ気が付けたのだろう
おそらく7年もの間共に生活してきたルークは欠片も気がついていないだろうな、とジェイドは思う
「今までは、弟、というか、あくまで主従関係があった上での馴れ合いだったと思う。俺自身そんなにルークが大切だと思わなかった。怪我して気を失っても大して気にも止めなかっただろうな。心配はするさ、でもそれは表面上だけだ。」
「…ふむ。この間のガイの顔は面白かったですからね。」
先日の事だ
ルークがティアを庇って傷を負った
その際毒に当てられ暫く気を失ったままだった事がある
そのときのガイの表情は面白いほど狼狽していてとても表面だけの心配には見えないだろう
「あの後から連日夢を見るんだ。…個人的にはいい夢なんだがな。」
頭を掻くガイを見て、ま〜若いですからね、と適当な相槌をうつ
一方ガイの方はそんなジェイドの態度は予想の範囲内だったのだろう
いや、もともとジェイドに何を言われても気にしないつもりだったのだろう
旦那よりは若いからな、と軽口を叩く
「自分でもおかしいと思うし、今まで生きてきた中で一番悩んだ。男が男の事を好きになるなんて異状だからな。」
「そうですね。ですが気が付いてしまったのでしょう。仕方ないんじゃないですか?。」
さも何でもない事のように言うものだから流石のガイも呆れてしまった
「気が付いてしまった以上諦められないのなら仕方ないでしょう。気が済むまで悩んで、苦しんでください。」
そう答える彼の瞳は見えない
緩慢に色を変える部屋の中で彼の姿は酷く曖昧な線のように映る
重圧的な声音は物悲しさを奏でる
「ソレは経験論か?」
「伊達に長く生きてませんよ。」
挑戦とも、自虐とも取れる笑みを浮かべ、黙った





「まったく、面白いほど運のない人ですね。」
いっそ憐れですよ
そう呟くとずれた眼鏡を掛けなおす

つい、先日だ

ガイ自身が異端とされる思いに気が付いたのは
これからどうするのかを思考錯誤で探して以降としていた矢先の事だ

マルクト貴族
消滅したホドの生き残り

ファブレ公爵に全てを奪われてしまった青年

おそらくもっともっと後にルークに打ち明けるつもりだったのだろうが、まさかこんな所で露見する羽目になるとは

「ジェイド?」
不安げに揺れる瞳を向け、ルークはゆっくりと扉を開いた
「ガイは…?」
おどおどと伺うルークにジェイドは声をかける
「ガイが怖いですか?」

ルークは一瞬顔を強張らせたがゆっくりと首を振った
「…少し、怖いのかもしれない。」
そうですか、
ジェイドは顔を背ける
「でも」
ルークは拳を握り言う
その声音にジェイドも思わずルークを見る
その瞳はまっすぐだった
「ガイは大切だし、ガイも俺を信じてくれた。だから信じたいんだ。信じてもらえないのが辛い事、知ってるから…。」
段々と俯くルークにジェイドは聞こえよがしにため息を吐く
「それは、つまり」
眼鏡の縁に指を掛けいつもの笑顔を作り出す事に成功する
「私に対する嫌味ですか?」
まったく、ルークも強くなったものですね
と小さく言うとルークは可哀想なほど体を揺らす
「が、ガイが目、覚めてないならいいや。あ、ああ、後でな、ジェイド。」
逃げるように部屋を出て行くのを確認してからジェイドはベットに視線を戻す

「だ、そうです。」

独り言ですよ、とジェイドはガイに言うと部屋を出て行った

静かになる部屋でガイはゆっくりと体を起こした
「やっぱ、気が付いてたか…。」
起きているのを知っていながらあの質問
なんと人が悪いのだろう

だが、この締まりのない顔はどうだ

「…だめだ、にやける。」
呟きは静かな部屋に吸い込まれていった