Let's Petapeta
宿屋にいる時間はほぼ眠っている事が多い。話をするとしても、男性陣と女性陣とでは部屋に分かれる前に明日の予定を簡単に話す程度だ。わざわざ部屋の行き来をしたりはしない。
この夜は、3人部屋と2人部屋をそれぞれ一室ずつ借りる事が出来た。が、それではベッド数が足りない。どうしましょうかとティアが口を開こうとするより早く、ジェイドはベッドの当てがありますのでと大人の笑みで言って、追究を受ける前に宿から姿を消してしまった。それでも残された5人での部屋割りは困難だ。ガイ以外は、皆女なのだから。
「はぁ? 何悩んでんだよ。俺とガイが同じ部屋で問題ないだろ」
男であった時の延長で、ルークは渋面の女性陣に首を傾げる。
「何を言っているのよ、ルーク! あなたは女の子なんだから、そういう訳には行かないでしょう!!」
「そうですわよ!! 婚前の女性が、殿方と同じ部屋に泊まるだなんて、私許しません事よ」
「まぁねぇ〜、私はガイと一緒でも何も無いと思うけどねぇ〜…だって、ガイだし!!」
ティアとナタリアの猛反対とアニスのぬるい反対に眉を寄せつつ、じゃあ、とルークはガイを振り返って問うた。
「ガイはどうだよ。構わないよな」
「えっ、俺か。いや…俺はまぁ、構わんがなあ」
それでも少し困った顔を見せるのが面白くなく、ルークはむっと口を結ぶ。男と、女は勿論違う。けれど態度まで変えられるのは気に入らない。押し黙ったルークにティアが優しく声をかけた。
「私たちと同じ部屋でいいでしょう、ルーク。たった一晩の事よ」
「ティア…ナタリアに、アニスももうちょっと考えてくれよ。俺は、ちょっと前まで男だったんだぞ? 同じ部屋で、きっ着替えたりとかっ…なんか」
今までが当然だった部屋割りをいきなり変えられるのも勿論いやだが、それより何より女に囲まれて寝泊りなんて、堪えられなかった。
頬を染め、拗ねたように下を向いて言いごもるルークが、ガイは元より女性陣の母性本能までをもきゅうっと引き絞る事など本人は思いも寄らない。
「だ、ダメよやっぱり。こんなルークと同じ部屋にいたら、どんな子羊だって狼になるわよ。みすみす見殺しに何か出来ないわ!!」
暗にガイを指しているので、勿論比喩されているガイは自分が子羊はどうだろうと思いながらもルークの無意識な悩殺態度にクラクラしている。
「そ…そうですわね。私もそう思いますわ!! ルーク、一緒に寝ましょう」
「なんなら私と一緒にねよっかぁ〜?」
畳み掛けるように言われて、ルークは恥ずかしいのだと、恥ずかしいのを堪えて告げたのに事態は一転もせずに徒労は怒りに代わった。
「っ…人の話を聞けって!! だからっ!! いいじゃねーか、俺もガイもいいって言ってるんだし、誰に迷惑かけるわけでもねーんだし!!」
二人を同じ部屋にして一晩やきもきさせられるのは迷惑以外の何物でも無いのだと、説明してやれる言葉をティアもナタリアも持たない。言う前に、ルークがガイの腕を取って、二人部屋に引っ張ってしまったからだ。
「ちょっと…ルーク!!」
「ガイ!! ここをお開けなさい!!」
気分はもう年頃の娘を持つ母親の心境で、ティアとナタリアは閉ざされた扉を叩いた。
少し前まではしつこく叩かれていた扉は、今はもう諦めたのか廊下もしんとして話し声もない。
「………ったく、考え過ぎなんだよな」
「まぁそう言うなよルーク。彼女たちも、お前の事を心配して言ってくれてたわけなんだし」
つまりそれほどガイは信用が無いわけだが、それには都合よく目を瞑る。事実、女性化した事でほそりとした腰や、布の余るぶかぶかの服の中で泳ぐような肢体から目を逸らしがちだ。正視しては、理性が持たないと深層心理で思っているせいだ。
「さて、と。じゃあもう寝るか」
ガイは意図的に、明るい声で言った。それなのに、その気遣いをルークが断る。
「まだ寝るには早いだろ。ちょっと話そうぜ。へへ、屋敷にいた時みたいだな」
ガイの座るベッドに寝そべり、見上げる形でルークが笑う。安息の場所を追われたルークにとって、その記憶は良いものばかりと言うわけでもなかった。安息で、退屈だった。無為に過ごしていた時間を、共に過ごした時間はガイが一番多い。生まれた時からなのでそれは当然だったが。
鳥篭の鳥が広い空を憧れるように憧れた空は、実際ルークに厳しい。
一体毎日何を話していたのか、覚えてもいないつまらない話だ。それなのに懐かしく微笑むルークが愛しく、無意識に手が伸びる。
「…ガイ?」
髪に触れる寸前で躊躇し、引っ込まれた腕に首を傾げる。
「あっ、いや…」
「………ああ、そうか、俺…今女なんだったっけ」
戻れる保証もなく、『今』と言う。寂しそうな表情をするから済まなく思って、ガイは明確な理由も思いつかないのに慰めようと言葉を捜した。
「俺、実は一回やってみたかった事があるんだよな」
「は?」
沈んでいるのかと思っていたルークは、ぱっと身体を起こしガイに抱きついた。
「……っ!!? なっ、ル、ルークっ!!!!! ばか、やめろ!!」
「ぺたぺたぺた……」
いつかのアニスとジェイドを真似て、ルークがガイの身体を触る。ルークが男の時は同じ男として女性恐怖症に同情的な気持ちも持ってはいたが、内心ガイの反応が面白いとも思っていた。もちろん、ガイの恐怖症の理由を知った今となっては無闇に悪戯するのも気が引ける。けれどやってみたいものはやってみたい。
調子にのって、ベッドに横になったガイに馬乗りになる。
「ルーク…っ!! こら、お前言い加減に……」
「へっへ〜」
護身術の練習と称して、二人で技の掛け合いのようなことをした事は、勿論ある。けれどそれは男の時だ。ルークは今のように華奢ではなかったし、触れ合う肌はこんなに柔らかくも無かった。腹筋に感じるルークの太股やお尻の感触に、いい加減理性も切れる。
「………」
「えっ、…わ、ガイ………っ!!」
不意に両肩を掴まれ、強い力で身体を入れ替えられる。ベッドに縫い止められるように。髪が乱れて、頬にかかった。
「ガイ…。怒ったのか?」
逆光で表情の読めないガイは無言で、ルークはやり過ぎたかと眉を寄せる。しかし今は、ガイがルークの両手首を押さえ込んでいる状態で、ルークが触っているわけではない。
「あ、れ…? お前…、俺女なのに」
何故触れるのかと純粋に不思議に思う。
「女でも、ルークだろ」
「で、でも…」
「それより」
更に訊ねようとするルークを、ガイは遮る。声音に、ルークはびくりと身体を竦めた。ガイの顔が近付く。思わず息を詰めるルークにガイは薄く笑って、唇を合わせずルークの首筋に微かに歯を立てる。
「あんまり、男をからかわない方が良い」
「………っん」
軽く噛んだ首筋を今度は吸い、紅く痕を付ける。けれどそれ以上は何もせず、ルークを解放した。
「本当に、少しは自覚した方が」
いい。p
と最後までルークは言わせなかった。
少しショックを受けていたが、それでも直ぐに我に返って、膝立ちのガイの急所をその細い脚で力一杯蹴りあげた。
「○×■△☆――――――〜〜〜〜〜〜っ!??????」
「ガっ、ガイのばかぁーっ!!!!」
涙目で詰る。
子孫の種が死に耐えそうな時だと言うのにガイはそれでも泣きべそなルークは可愛いと思いながら股間を押さえつつ、部屋を出て行くルークの背を見送る。
女性陣の部屋にかけ込んで、数分後にはルークの様子に憤慨したティアを筆頭にナタリアもアニスも銘々本気で武器を持ってやってくる………のをガイは知らない。