あの娘のハート(胸)は俺の物☆









 ルークの身体が女性化し、回りも、そして本人も少しずつその事実に順応して行きつつある。ルーク本人としては、納得しにくい出来事でも事実なのだと認めた方が気分的に楽でもあった。
 一度しかない人生で、女を経験してみるのも最近では悪いことではないと、前向きに考えられるようになった。
 というのに、
「ルーク!! お前、女なんだから、へそは出すなよ。はしたない」
 というガイの小言は正直うざったい。
「…ったく、うぜーっつーのっ!! 俺の勝手だ!! それに、男の時は良くて女になったらダメなんておかしいだろ」
 もうこの会話は何度目になるのか。ガイとしてはルークのその、滑らかで柔らかそうな諸肌を直視するのは男として正気を保つのも難しく、魔物との戦闘に至ってはルークが剣を大きく振り被るたびにちらりと見える脇腹が、堪らないのだ、とは勿論言えない。
 しかしそんなガイの切実な状態など知らないルークは、服装の事にあれこれ口を出されるのを嫌う。
「まあまあ、いいじゃないですか。本人がいいと言ってるんですし。それにその格好であれば女性だとばれずに、安易に盗賊に狙われることも減りますよ」
「でもなぁ…」
 ガイののっぴきならない若い衝動を知っていながら、ジェイドがルークに助け舟を出す。けれどジェイドがフォローに回ったというのに、ルークは浮かない顔を浮かべた。
 微かに口をへの字に曲げ俯くルークに、ティアが首を傾げる。
「どうしたの、ルーク?」
「…いや、何か…俺って女になったのに女に見えないのかな」
 女になった当初は、それを否定し混乱し不幸を嘆いたが、今はそれなりに受け入れてもいるので、女に見えないと言われると何だか不本意だ。都合がいいと自分でも思うけれど、男であればカッコイイと思われたいし、女であればカワイイと思われたい。
「俺、胸が小さいからかなぁ…」
 ぱふ、と自分で自分の胸を服の上から押さえ悩む姿が、男に、いや特にガイにどれほどの影響を及ぼすのかをルークは知らない。
「………っ…」
 思わず口元を押さえ、立っていられずガイがその場にしゃがみ込む。それを横目に見つつ、ジェイドは大人の余裕で朗らかに言ってみせた。
「誰かに揉んでもらうと、大きくなるといいますね」
「…誰かって、自分じゃ意味ないのか? …あっ、じゃあ、もしかしてティアのメロンも、まさか誰かに…っ!??」
「ばっ、ばかなこと言わないでっ!!」
 頬を染め、ティアが即座に否定する。
 ナタリアはそれでも、まぁ…と驚いた口元を手で隠し、アニスはそっかぁ〜と頷き記憶に留める。
「まぁ、よくある迷信でしょうが」
 女性陣を翻弄させておきながら、ジェイドはあっさり根拠が無いと言ってうら若き乙女の希望を砕く。
「なんだ…、つまんねーの」
「おや、興味がありますか? 信じて実行してみれば大きくなるかもしれませんよ。協力しても構いませんが」
 ぼやくルークに楽しそうにジェイドが提案し、黙ってられずガイがすっくと立ち上がった。
「だっ、ダメだダメだっ!! 俺が引き受ける!!」
 必死の形相に、思わずルークは後退り、助けを求めるようにティアの服をつかむ。
「馬鹿かっ、ガイ!? だったら俺はティアに頼むぞ」
「えぇっ、私? だ、ダメよ私は」
 背後に隠れるようなルークを振り返り、ティは私にふられても困ると首を振る。
「………」
 その場の誰もが、一瞬ティアとルークの回りにピンク系統の妖しい空気や白く可憐な百合の花を見た気がして、目頭を押さえ錯覚かと目を瞬かせた。
「そっ、それにガイお前、そもそも女性恐怖症だろ!!」
 断る決定的な理由を思い当って、ルークはほっと安堵する。小さい頃から一緒にいるガイに、胸を揉まれるなんて考えただけでも気恥ずかしい。
 ガイは一瞬気付かれたかとチっと舌を打つが、それでもめげない。
「俺はっ…お前なら大丈夫だ。我慢する!!」
「っ……我慢されてまで誰が揉ませるか馬鹿野郎ーっ!!!!!」
 ガイの言い草に気高き女の自尊心は甚く傷付いて、ルークは拳を堅く握る。
「ばかだなぁ、お前達。最高の適任者が、目の前にいるだろうが」
 ぎゃーぎゃーわーわーと不毛な会話を止めたのは、ハーレム政策を建設邁進中のマルクト帝国ピオニー9世陛下に他ならない。
「うっわ!! 何でここに!?」
「何故も何も、俺の部屋で俺の可愛いジェイドを撫でながらガイラルディアが小言を言い始めたんだぞ。責められる謂れは無いな」
 だから、さあおいでとベッドに腰掛けたピオニーに両手を広げられても素直にルークは動けない。洒落にならないとそれは誰もが思うことだ。本能でルークは身の危険を感じる。
「遠慮するな。良い思いをさせてやろう…なんなら俺の跡継ぎを産んでくれてもいいぞ」
「陛下…ルークをからかわないで下さい」
 ピオニーが相手ではルークも対処に困る。困ったものだとジェイドが進言し、ピオニーは微苦笑を浮かべ肩を竦めた。
「残念だな。しかしまぁ、俺のジェイドも幾ら揉んでも胸は大きくならないし、子は産めないからな。…なぁ、ジェイド」
 組んだ足の上で頬杖を突き、意味深な視線をジェイドに向ける。ジェイドは無言で射殺せるような視線をピオニーに向ける。
「………」
 『俺のジェイド』が、ブウサギに掛かるのか人間に掛かるのか、追究してはいけないことをその場の誰もが空気で悟る。ブウサギでは無いジェイドから、肌を刺す様な真冬の冷たいオーラが漂って来るからだ。
 結局、雪国生まれの寒さに慣れた二人を残し、ルーク達は居た堪れずに部屋を辞した。
 ルークの胸を大きくしよう計画は、隙あらばガイが協力する気で虎視眈々と機会を窺っている…らしい。